- ✓ マラセチア毛包炎は、カビの一種であるマラセチア菌が毛包内で増殖することで発症する皮膚疾患です。
- ✓ 一般的なニキビとは原因菌が異なるため、適切な診断と治療が重要です。
- ✓ 抗真菌薬による治療が中心となり、症状の改善には数週間から数ヶ月を要することがあります。
マラセチア毛包炎は、一見するとニキビのように見えるものの、原因が異なる皮膚疾患です。特に胸や背中、額などに多発する傾向があり、適切な治療を受けることで改善が期待できます。この疾患について、その特徴、原因、診断方法、そして効果的な治療法を詳しく解説します。
マラセチア毛包炎とは?一般的なニキビとの違い

マラセチア毛包炎とは、皮膚の常在菌であるマラセチア属の真菌(カビ)が毛包(毛根を包む組織)内で異常に増殖することで炎症を引き起こし、ニキビに似た赤いブツブツや膿疱(のうほう)を形成する皮膚疾患です[3]。一般的なニキビ(尋常性ざ瘡)はアクネ菌(Cutibacterium acnes)という細菌が主な原因であるのに対し、マラセチア毛包炎は真菌が原因である点が大きく異なります[4]。
当院では、特に夏場や汗をかきやすい季節に「背中や胸にニキビのようなものがたくさんできて治らない」と相談される患者さまが多くいらっしゃいます。問診や視診でマラセチア毛包炎を疑うケースも少なくありません。
マラセチア毛包炎の主な特徴
- 発症部位: 主に胸、背中、肩、首、額など、皮脂腺が発達している部位に多く見られます。
- 症状: 直径1~3mm程度の均一な大きさの赤い丘疹(きゅうしん:盛り上がったブツブツ)や膿疱(膿を持ったブツブツ)が多発します。かゆみを伴うことが多く、特に汗をかいた後や入浴後に悪化する傾向があります。
- 面皰(めんぽう)の欠如: 一般的なニキビに見られる白ニキビ(閉鎖面皰)や黒ニキビ(開放面皰)といったコメド(毛穴の詰まり)は、マラセチア毛包炎では通常見られません。これは、マラセチア菌が毛穴の詰まりとは異なる機序で炎症を引き起こすためです。
一般的なニキビとの見分け方
マラセチア毛包炎と一般的なニキビは見た目が似ているため、自己判断は難しいことがあります。しかし、いくつかの特徴から区別が可能です。臨床の現場では、患者さまの症状の均一性や、かゆみの有無、そしてニキビ治療薬が効かないという訴えから、マラセチア毛包炎を疑うことが多いです。
| 項目 | マラセチア毛包炎 | 尋常性ざ瘡(一般的なニキビ) |
|---|---|---|
| 原因菌 | マラセチア属真菌(カビ) | アクネ菌(細菌) |
| 主な発症部位 | 胸、背中、肩、額 | 顔(特にTゾーン)、胸、背中 |
| 症状の特徴 | 均一なサイズの赤い丘疹・膿疱、強いかゆみ | 面皰(白ニキビ・黒ニキビ)、様々なサイズの丘疹・膿疱、痛みや圧痛 |
| 治療薬への反応 | 抗真菌薬が有効、抗菌薬は無効 | 抗菌薬、レチノイド、過酸化ベンゾイルなどが有効 |
これらの違いから、自己判断でニキビ治療を続けても改善が見られない場合は、マラセチア毛包炎の可能性を考慮し、皮膚科専門医の診察を受けることが重要です。
マラセチア毛包炎の原因とは?なぜカビが増えるのか
マラセチア毛包炎の直接的な原因は、マラセチア属の真菌の異常増殖です。マラセチア菌は、健康な人の皮膚にも存在する常在菌であり、特に皮脂腺が豊富な部位に多く生息しています。しかし、いくつかの要因が重なることで、この菌が過剰に増殖し、毛包内で炎症を引き起こすと考えられています[2]。
診察の中で、マラセチア毛包炎の患者さまには、汗をかきやすい生活習慣や、特定の薬剤の使用歴がある方が多いことを実感しています。これらの要因がマラセチア菌の増殖に適した環境を作り出していると考えられます。
マラセチア菌の増殖を促す主な要因
- 高温多湿な環境: マラセチア菌は高温多湿な環境を好みます。夏場や汗をかきやすい状況、通気性の悪い衣類などは、菌の増殖を促進する可能性があります。
- 皮脂の過剰分泌: マラセチア菌は皮脂を栄養源として増殖します。思春期やストレス、ホルモンバランスの乱れなどにより皮脂分泌が増加すると、菌が増えやすくなります。
- 免疫力の低下: ストレス、疲労、病気などにより体の免疫力が低下すると、常在菌であるマラセチア菌のバランスが崩れ、異常増殖につながることがあります。COVID-19感染後にマラセチア毛包炎の発症が報告されたケースもあります[1]。
- 抗菌薬の使用: 長期にわたる抗菌薬(抗生物質)の使用は、皮膚の常在細菌叢のバランスを崩し、マラセチア菌が優位になる環境を作り出すことがあります。これにより、マラセチア毛包炎の発症リスクが高まる可能性があります。
- ステロイド外用薬の使用: ステロイド外用薬の長期使用も、皮膚の免疫機能を抑制し、マラセチア菌の増殖を助長することが知られています。
- 糖尿病: 糖尿病患者は免疫機能が低下しやすく、感染症にかかりやすいため、マラセチア毛包炎のリスクも高まる可能性があります。
これらの要因が単独で、または複数組み合わさることで、マラセチア菌が毛包内で炎症を引き起こすと考えられています。特に、ニキビ治療のために抗菌薬を長期間使用しているにもかかわらず改善しない場合や、むしろ悪化しているように感じる場合は、マラセチア毛包炎の可能性を疑う必要があります。
マラセチア毛包炎は、一般的なニキビとは治療法が異なるため、自己判断で市販のニキビ薬を使用しても効果が期待できないばかりか、症状を悪化させる可能性もあります。疑わしい症状がある場合は、必ず皮膚科を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。
マラセチア毛包炎の診断と検査方法とは?

マラセチア毛包炎の診断は、主に皮膚科医による視診と、必要に応じて顕微鏡検査によって行われます。正確な診断があって初めて、効果的な治療を開始できます。初診時に「ニキビだと思って市販薬を塗っていたけど全く良くならない」と相談される患者さまも少なくありませんが、この段階で鑑別診断を行うことが非常に重要です。
視診と問診
医師はまず、患者さまの皮膚の状態を詳しく観察します。マラセチア毛包炎に特徴的な、均一なサイズの赤い丘疹や膿疱が多発しているか、面皰がないか、かゆみの有無、発症部位などを確認します。また、問診では、症状がいつから始まったか、どのような状況で悪化するか(例: 汗をかいた後、特定の季節)、これまでの治療歴、基礎疾患の有無などを詳しく聞き取ります。特に、抗菌薬やステロイドの使用歴は重要な情報となります。
顕微鏡検査(KOH直接鏡検)
マラセチア毛包炎の確定診断には、顕微鏡検査が最も一般的で有効な方法です。これはKOH直接鏡検(水酸化カリウム直接鏡検)と呼ばれます。
- KOH直接鏡検
- 患部から採取した皮膚の表面の角質や膿疱の内容物をスライドガラスに乗せ、水酸化カリウム(KOH)溶液で処理して顕微鏡で観察する検査です。水酸化カリウムは細胞成分を溶かし、真菌の菌糸や胞子を観察しやすくする効果があります。マラセチア毛包炎の場合、特徴的な「スパゲッティ・アンド・ミートボール」状の真菌の集塊が観察されることがあります。この検査は、短時間で結果が得られ、その場で診断に役立てることができます。
この検査により、マラセチア菌の存在を確認することで、他の皮膚疾患(例: 尋常性ざ瘡、細菌性毛包炎、接触皮膚炎など)との鑑別が可能になります。実際の診療では、この検査でマラセチア菌が確認されると、患者さまも「ニキビじゃないんだ」と納得され、治療へのモチベーションが高まることが多いです。
その他の検査
場合によっては、より詳細な検査が必要になることもあります。
- 真菌培養検査: 採取した検体を特殊な培地で培養し、どのような種類の真菌が増殖するかを確認する検査です。マラセチア菌は培養が難しい場合もありますが、他の真菌感染症との鑑別に有用です。
- 皮膚生検: 診断が困難な場合や、他の疾患の可能性が考えられる場合に、皮膚の一部を採取して病理組織学的に検査することがあります。
これらの検査を総合的に判断することで、マラセチア毛包炎を正確に診断し、最適な治療計画を立てることが可能になります。
マラセチア毛包炎の治療法と効果的なケア
マラセチア毛包炎の治療は、原因であるマラセチア菌の増殖を抑えることが中心となります。主に抗真菌薬を用いた治療が行われ、症状の程度や範囲に応じて外用薬と内服薬が使い分けられます。実際の診療では、治療を始めて1〜2ヶ月ほどで「かゆみが落ち着いてきた」「ブツブツが減ってきた」とおっしゃる方が多いです。
外用薬による治療
軽症の場合や、広範囲にわたらない場合は、抗真菌作用のある外用薬が第一選択となります。これらの薬剤は、マラセチア菌の細胞膜の合成を阻害することで、菌の増殖を抑えます。
- アゾール系抗真菌薬: ケトコナゾール[5]、ミコナゾール、エコナゾールなどが含まれます。クリーム、ローション、シャンプーなどの剤形があり、患部に直接塗布したり、体全体を洗うのに使用したりします。特に、抗真菌成分を含んだシャンプーは、広範囲に及ぶマラセチア毛包炎や、再発予防に有効です。通常、1日1〜2回、数週間から数ヶ月間使用します。
- その他の抗真菌薬: ルリコナゾール、テルビナフィンなども使用されることがあります。
外用薬は、症状が改善した後も、再発予防のためにしばらく継続して使用することが推奨される場合があります。
内服薬による治療
症状が広範囲にわたる場合、外用薬で効果が見られない場合、または再発を繰り返す重症例では、内服の抗真菌薬が検討されます。内服薬は全身に作用するため、より高い効果が期待できます。
- イトラコナゾール: マラセチア毛包炎の治療によく用いられる内服薬です。通常、1日1回、数週間から数ヶ月間服用します[6]。パルス療法(短期間に高用量を服用し、休薬期間を設ける方法)が用いられることもあります。
- フルコナゾール: イトラコナゾールと同様に、アゾール系の抗真菌薬で、内服薬として使用されます。
内服薬には副作用のリスクもあるため、医師の指示に従い、定期的な血液検査などで肝機能などを確認しながら慎重に治療を進める必要があります。
日常生活でのケアと予防策
治療と並行して、マラセチア菌の増殖を抑えるための日常生活でのケアも非常に重要です。実際の診療では、これらの生活習慣の改善が治療効果を大きく左右すると感じています。
- 清潔な肌を保つ: 汗をかいたらこまめにシャワーを浴びるか、清潔なタオルで拭き取りましょう。ただし、ゴシゴシ洗いすぎると皮膚のバリア機能を損ねるため、優しく洗うことが大切です。
- 通気性の良い衣類を選ぶ: 化学繊維よりも綿などの吸湿性・通気性の良い素材を選び、肌に密着しすぎないゆったりとした服装を心がけましょう。
- 保湿ケア: 皮膚の乾燥はバリア機能の低下を招き、皮膚トラブルの原因となります。適切な保湿ケアで肌の健康を保ちましょう。ただし、油分の多いクリームはマラセチア菌の栄養源となる可能性があるため、さっぱりとした使用感の保湿剤を選ぶと良いでしょう。
- 食生活の見直し: 脂質の多い食事や糖分の過剰摂取は皮脂分泌を促進する可能性があります。バランスの取れた食生活を心がけましょう。
- ストレス管理: ストレスは免疫力の低下やホルモンバランスの乱れにつながり、マラセチア毛包炎を悪化させる可能性があります。十分な睡眠やリラックスできる時間を持つことが大切です。
これらの治療とセルフケアを継続することで、症状の改善と再発予防が期待できます。
マラセチア毛包炎は再発しやすい?予防策と注意点

マラセチア毛包炎は、適切な治療によって症状が改善しても、再発しやすい傾向があります。これは、原因となるマラセチア菌が皮膚の常在菌であること、そして皮脂分泌や高温多湿といった環境要因が関与しているためです。実際の診療では、症状が改善した後に治療を中断してしまい、数ヶ月後に再発して受診される患者さまも少なくありません。そのため、治療後の予防策が非常に重要なポイントになります。
再発予防のための継続的なケア
- 抗真菌成分配合のボディソープ・シャンプーの活用: 症状が改善した後も、週に数回、抗真菌成分(例: ミコナゾール、ケトコナゾールなど)が配合されたボディソープやシャンプーを使用することで、マラセチア菌の過剰な増殖を抑制し、再発リスクを低減できます。これは、特に汗をかきやすい季節や、背中・胸に再発しやすい方に有効です。
- 清潔な環境の維持: 寝具や衣類はこまめに洗濯し、清潔に保つことが大切です。特に夏場は、汗を吸った衣類を長時間着用しないように注意しましょう。
- 皮膚のバリア機能の維持: 過度な洗浄や摩擦を避け、肌の乾燥を防ぐために適切な保湿ケアを継続しましょう。健康な皮膚は、外部からの刺激や微生物の増殖から体を守る重要な役割を果たします。
治療中の注意点
- 自己判断での治療中断を避ける: 症状が軽快したからといって、自己判断で治療を中断すると、マラセチア菌が完全に排除されずに再発につながることがあります。医師の指示に従い、処方された期間は治療を継続することが重要です。
- 他の皮膚疾患との鑑別: マラセチア毛包炎は他の皮膚疾患と症状が似ているため、診断が難しい場合があります。特に、治療しても改善が見られない場合は、再度医師に相談し、診断の再検討や他の疾患の可能性を考慮してもらうことが大切です。
- 内服薬の副作用への注意: 内服の抗真菌薬を使用する場合、肝機能障害などの副作用が報告されています[6]。定期的な血液検査などで体調の変化に注意し、異常を感じたらすぐに医師に報告しましょう。
マラセチア毛包炎は、適切な治療と継続的なケアによって管理できる疾患です。皮膚の異常を感じたら、早めに皮膚科を受診し、専門医の指導のもとで治療と予防に取り組むことが、健康な肌を保つための鍵となります。
まとめ
マラセチア毛包炎は、マラセチア菌というカビが原因で起こるニキビに似た皮膚疾患です。一般的なニキビとは原因が異なるため、抗菌薬ではなく抗真菌薬による治療が必要となります。胸や背中、額などに均一なサイズの赤いブツブツや膿疱が多発し、かゆみを伴うのが特徴です。診断は皮膚科医による視診と顕微鏡検査が中心となり、外用薬や内服薬による抗真菌治療が行われます。再発しやすい疾患であるため、治療後も抗真菌成分配合の洗浄剤を使用したり、清潔で通気性の良い環境を保つなどの予防策が重要です。症状が改善しないニキビのような症状がある場合は、自己判断せずに皮膚科を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。
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よくある質問(FAQ)
- Alejandro Barrera-Godínez, Grecia Figueroa-Ramos. Malassezia Folliculitis in the Setting of COVID-19.. Current fungal infection reports. 2023. PMID: 36741270. DOI: 10.1007/s12281-023-00450-8
- Mattias As Henning, Gregor B Jemec, Ditte Ml Saunte. [Malassezia folliculitis].. Ugeskrift for laeger. 2021. PMID: 33215579
- Richard M Rubenstein, Sarah A Malerich. Malassezia (pityrosporum) folliculitis.. The Journal of clinical and aesthetic dermatology. 2014. PMID: 24688625
- Natalia V Chalupczak, Shari R Lipner. Malassezia Folliculitis: An Underdiagnosed Mimicker of Acneiform Eruptions.. Journal of fungi (Basel, Switzerland). 2025. PMID: 41003208. DOI: 10.3390/jof11090662
- ケトコナゾール(ケトコナゾール)添付文書(JAPIC)
- イトラコナゾール(イトラコナゾール)添付文書(JAPIC)
