- ✓ 防風通聖散は、肥満症や便秘、むくみなどに用いられる漢方薬です。
- ✓ 脂肪燃焼促進、便通改善、炎症抑制など複数の作用機序が報告されています。
- ✓ 医師の診断のもと、体質や症状に合わせて適切に服用することが重要です。
防風通聖散とは?その特徴と適応について

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)とは、肥満症や便秘、むくみなどの症状に用いられる日本の伝統的な漢方薬(漢方薬)です。18種類の生薬(しょうやく)を組み合わせた処方であり、特に体力があり、お腹周りに脂肪が多い方に適しているとされています。
防風通聖散は、中国の金・元時代に著された『宣明論(せんめいろん)』に記載された処方で、日本では江戸時代から広く用いられてきました。その名前は「風(ふう)を防ぎ、聖(ひじり)のように通じる」という意味を持ち、体内の余分な熱や水分、老廃物を排出することで、さまざまな不調を改善することを目指します。臨床の現場では、初診時に「お腹周りの脂肪が気になる」「便秘がちでむくみやすい」と相談される患者さまも少なくありませんが、そのような方々に防風通聖散を検討することがよくあります。
防風通聖散の主な成分と作用
防風通聖散は、以下の18種類の生薬から構成されています。これらの生薬が複合的に作用し、体質改善を促します。
- 麻黄(まおう)、荊芥(けいがい)、防風(ぼうふう)、薄荷(はっか)、連翹(れんぎょう)、桔梗(ききょう)、石膏(せっこう)、黄芩(おうごん)、大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、白朮(びゃくじゅつ)、山梔子(さんしし)、甘草(かんぞう)、滑石(かっせき)、生姜(しょうきょう)
これらの生薬は、それぞれ異なる薬理作用を持ちながら、相互に協調して効果を発揮します。例えば、麻黄は発汗作用や脂肪燃焼促進作用が期待され、大黄や芒硝は便通を改善する作用があります。また、黄芩や山梔子には抗炎症作用が報告されています。このように、防風通聖散は単一の成分ではなく、複数の生薬の組み合わせによって、多角的に体へアプローチする点が特徴です。
どのような症状に用いられるのか?
防風通聖散の主な適応症は、体力があり、腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちな方の以下の症状です。
- 肥満症
- 高血圧や肥満に伴う動悸・肩こり・のぼせ
- 便秘
- むくみ
- 蓄膿症(副鼻腔炎)、湿疹・皮膚炎、ふきでもの(にきび)
特に、肥満症に対する効果については多くの研究がされており、メタアナリシス(複数の研究結果を統合して解析する手法)でも、防風通聖散が肥満者のBMI(体格指数)改善に寄与する可能性が示唆されています[1]。当院では、肥満症の患者さまに対して、食事指導や運動療法と併せて防風通聖散を処方することで、より効果的な体重管理を目指しています。
- 肥満症
- 単に体重が多いだけでなく、肥満に起因または関連する健康障害を合併している場合、あるいは合併が予測される場合を指します。BMIが25以上で、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの合併症がある場合に診断されます。
防風通聖散はなぜ肥満に効くのか?その科学的根拠
防風通聖散が肥満症に対して効果を示すメカニズムは、複数の経路が複合的に関与していると考えられています。近年、多くの研究によりその科学的根拠が解明されつつあります。
脂肪燃焼促進と代謝改善のメカニズム
防風通聖散に含まれる複数の生薬成分が、脂肪の蓄積を抑制し、燃焼を促進する作用を持つことが報告されています。具体的には、以下のようなメカニズムが考えられています。
- 交感神経活性化作用: 麻黄などに含まれるエフェドリン類が交感神経を刺激し、脂肪細胞での脂肪分解を促進する可能性があります。これにより、エネルギー消費が増加し、体脂肪の減少につながると考えられています。
- 脂肪細胞への作用: 防風通聖散の成分が、脂肪細胞の分化や増殖を抑制し、脂肪の蓄積を抑える作用を持つことが動物実験で示唆されています[2]。
- 肝臓での脂質代謝改善: 肝臓における脂質合成を抑制し、脂肪酸の酸化を促進することで、肝臓への脂肪蓄積を防ぎ、全身の脂質代謝を改善する可能性も指摘されています[5]。
これらの作用により、防風通聖散は単に体重を減らすだけでなく、体脂肪率の改善や内臓脂肪の減少にも寄与することが期待されます。実際の診療では、治療を始めて数ヶ月ほどで「お腹周りがすっきりした」「ズボンがゆるくなった」とおっしゃる方が多いです。
便通改善と腸内環境への影響
防風通聖散には、大黄や芒硝といった瀉下作用(便を出す作用)を持つ生薬が含まれており、便秘の改善に効果を発揮します。便秘が解消されることで、体内の老廃物が排出されやすくなり、むくみの改善にもつながります。
さらに、近年では腸内環境(腸内フローラ)と肥満との関連が注目されており、防風通聖散が腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)に影響を与える可能性も研究されています。マウスを用いた研究では、防風通聖散が高脂肪食による肥満マウスの腸内細菌叢を変化させ、脂肪蓄積を抑制することが示されています[3]。これは、腸内環境の改善が肥満治療の一助となる可能性を示唆しており、防風通聖散の多角的な作用の一端を裏付けるものです。
炎症抑制作用と肥満の関連性
肥満は、慢性的な軽度炎症状態(メタフレイメーション)と関連していることが知られています。防風通聖散に含まれる黄芩や山梔子などの生薬には、抗炎症作用があることが報告されており、これにより肥満に伴う炎症を抑制し、インスリン抵抗性(インスリン抵抗性)の改善などにも寄与する可能性があります。炎症が軽減されることで、代謝機能が正常化し、肥満の改善につながるという考え方です。実際の診療では、肥満に伴う関節痛や皮膚症状の改善を訴える患者さまもいらっしゃり、炎症抑制作用が関与している可能性も考えられます。
防風通聖散の正しい服用方法と注意点

防風通聖散は漢方薬ですが、医薬品であるため、正しい服用方法を守り、注意点を理解しておくことが非常に重要です。自己判断での服用は避け、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。
服用量とタイミング、期間について
防風通聖散の服用量やタイミングは、製品によって異なりますが、一般的には成人で1日2〜3回、食前または食間に服用します。食前とは食事の約30分前、食間とは食事と食事の間(食後約2時間)を指します。胃腸が弱い方は、食後の服用が推奨される場合もありますので、医師や薬剤師にご相談ください。
服用期間については、体質や症状によって異なりますが、効果を実感するまでに数週間から数ヶ月かかることがあります。当院では、患者さまの体質や症状の変化を定期的に確認しながら、継続の必要性を判断しています。急な中断はせず、医師の指示に従って服用を続けることが大切です。
服用上の注意点と副作用
防風通聖散は比較的安全性の高い漢方薬ですが、体質や体調によっては副作用が現れることがあります。主な副作用としては、以下のようなものが挙げられます。
- 消化器症状: 吐き気、食欲不振、腹痛、下痢など。特に大黄や芒硝の作用により、下痢が起こりやすい方もいらっしゃいます。
- 皮膚症状: 発疹、かゆみなど。
- その他: 動悸、発汗過多、不眠、むくみ、血圧上昇など。麻黄の作用によるものと考えられます。
重篤な副作用は稀ですが、間質性肺炎、肝機能障害、偽アルドステロン症(血圧上昇、むくみ、手足のだるさなど)などが報告されています。これらの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診してください。特に、過去には防風通聖散による薬剤性膀胱炎の症例も報告されており、体調の変化には注意が必要です[4]。
持病をお持ちの方(高血圧、心臓病、腎臓病、甲状腺機能亢進症など)や、他の薬を服用中の方、妊娠中または授乳中の方は、服用前に必ず医師や薬剤師に相談してください。また、高齢者や小児への投与は慎重に行う必要があります。
防風通聖散は誰にでも効果があるのか?体質との相性
漢方薬は、西洋医学の薬とは異なり、個人の体質(証(しょう))に合わせて処方されることが重要です。防風通聖散も例外ではなく、その効果は体質との相性に大きく左右されます。当院では、患者さまの体質や症状を詳細に問診し、最適な漢方薬を選定することを重視しています。
「実証」タイプに効果的とされる理由
防風通聖散は、漢方医学でいう「実証(じっしょう)」のタイプの方に特に適しているとされています。「実証」とは、体力があり、比較的頑丈で、病気に対する抵抗力が強い体質を指します。具体的には、以下のような特徴を持つ方が「実証」に該当することが多いです。
- 体力がある、がっしりした体格
- お腹周りに皮下脂肪が多い
- 便秘がちで、便が硬い傾向がある
- 顔色が良く、赤ら顔になることがある
- のぼせや動悸、肩こりなどの症状を伴うことがある
防風通聖散は、体内の余分な熱や水分、老廃物を排出する作用が強いため、体力のない「虚証(きょしょう)」の方や、胃腸が非常に弱い方が服用すると、かえって体調を崩す可能性があります。実際の診療では、患者さまの脈や舌の状態、お腹の触診なども含めて総合的に「証」を判断し、その方に合った処方を選択することが重要なポイントになります。
防風通聖散が合わない体質とは?
以下のような体質の方には、防風通聖散は適さない場合があります。
- 虚弱体質の方: 体力がなく、胃腸が弱い方は、下痢や食欲不振などの副作用が出やすい傾向があります。
- 冷え性の強い方: 防風通聖散は体を冷やす作用を持つ生薬も含むため、極度の冷え性の方には不向きな場合があります。
- 下痢をしやすい方: 瀉下作用が強いため、もともと下痢をしやすい方が服用すると、症状が悪化する可能性があります。
防風通聖散の服用を検討する際は、ご自身の体質が「実証」に合致するかどうか、専門医の診断を受けることが不可欠です。自己判断で服用を開始すると、期待する効果が得られないばかりか、体調を悪化させるリスクもあります。当院では、患者さま一人ひとりの状態を丁寧に診察し、防風通聖散が最適でないと判断した場合には、他の漢方薬や治療法をご提案しています。
| 項目 | 防風通聖散が合う体質(実証) | 防風通聖散が合わない可能性のある体質(虚証など) |
|---|---|---|
| 体力 | 体力充実、がっしりしている | 虚弱、疲れやすい |
| 体型 | お腹周りに皮下脂肪が多い | 痩せ型、筋肉質、脂肪が少ない |
| 便通 | 便秘がち、便が硬い | 下痢しやすい、軟便 |
| 顔色 | 赤ら顔、のぼせやすい | 青白い、血色が悪い、冷え性 |
| 症状 | 高血圧に伴う動悸・肩こり・のぼせ、むくみ | 冷え、貧血、疲れやすい |
防風通聖散の効果を最大化する生活習慣とは?

防風通聖散は、あくまで治療をサポートする医薬品であり、その効果を最大限に引き出すためには、生活習慣の見直しが不可欠です。適切な食生活、運動習慣、そして十分な睡眠は、肥満症の改善だけでなく、全体的な健康維持にもつながります。
食事療法と組み合わせる重要性
防風通聖散を服用しているからといって、好きなものを自由に食べるというわけにはいきません。バランスの取れた食事は、肥満治療の基本です。特に、高カロリーな食事や脂質の多い食事は控えめにし、野菜や食物繊維を豊富に含む食品を積極的に摂ることを心がけましょう。
- 食物繊維の摂取: 野菜、海藻、きのこ類、全粒穀物などを積極的に摂ることで、便通をさらに改善し、満腹感を得やすくします。
- 糖質・脂質の制限: 過剰な糖質や脂質は体脂肪として蓄積されやすいため、摂取量を意識的に減らすことが重要です。
- 規則正しい食事: 3食規則正しく摂り、間食を控えることで、血糖値の急激な上昇を抑え、脂肪の蓄積を防ぎます。
当院では、防風通聖散の処方と同時に、管理栄養士による個別栄養指導を行うこともあります。患者さま一人ひとりの食生活やライフスタイルに合わせた具体的なアドバイスを提供することで、より持続可能な改善を目指します。
適度な運動習慣の導入
運動は、体脂肪の燃焼を促進し、基礎代謝(基礎代謝)を高める上で非常に効果的です。特に、有酸素運動は脂肪燃焼に有効であり、ウォーキング、ジョギング、水泳などを無理のない範囲で継続することが推奨されます。
- 有酸素運動: 1日30分以上、週3回以上を目安に、継続できる運動を見つけましょう。
- 筋力トレーニング: 筋肉量を増やすことで基礎代謝が向上し、脂肪が燃えやすい体になります。スクワットや腕立て伏せなど、自宅でできる簡単なトレーニングから始めるのも良いでしょう。
運動習慣がない方でも、まずは「一駅分歩く」「エレベーターではなく階段を使う」といった小さなことから始めることが大切です。臨床の現場では、防風通聖散を服用しながら運動を取り入れた患者さまが、より早く効果を実感し、モチベーションを維持しやすいケースをよく経験します。
まとめ
防風通聖散は、体力があり、お腹周りに脂肪が多く、便秘がちな「実証」の肥満症患者さまに有効性が期待される漢方薬です。脂肪燃焼促進、便通改善、腸内環境への影響、炎症抑制など、多角的なメカニズムで肥満の改善に寄与すると考えられています。しかし、漢方薬であるため、個人の体質(証)との相性が重要であり、自己判断での服用は避けるべきです。必ず医師や薬剤師の指示のもと、適切な服用方法と生活習慣の改善を組み合わせることで、その効果を最大限に引き出すことができます。副作用のリスクも理解し、体調に異変を感じた際は速やかに医療機関を受診してください。
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よくある質問(FAQ)
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- Shinjiro Kobayashi. [Pharmacological Mechanisms of Boiogito and Bofutsushosan in Diabetes and Obesity Models].. Yakugaku zasshi : Journal of the Pharmaceutical Society of Japan. 2018. PMID: 29503432. DOI: 10.1248/yakushi.17-00168
- Kosuke Nakamichi, Tetsuhiro Yoshino, Masahiro Akiyama et al.. Three Kampo medicines-bofutsushosan, boiogito, and daisaikoto-have different effects on host fat accumulation and the intestinal microbiota in a high-fat-diet-induced mouse model of obesity.. Journal of natural medicines. 2025. PMID: 40563053. DOI: 10.1007/s11418-025-01917-3
- Kumiko Kato, Aika Matsushita, Shoji Suzuki et al.. Drug-induced cystitis caused by herbal medicine (Bofutsushosan).. Urology case reports. 2021. PMID: 33850729. DOI: 10.1016/j.eucr.2021.101644
- Takafumi Saeki, Saya Yamamoto, Junji Akaki et al.. Ameliorative effect of bofutsushosan (Fangfengtongshengsan) extract on the progression of aging-induced obesity.. Journal of natural medicines. 2024. PMID: 38662301. DOI: 10.1007/s11418-024-01803-5
