- ✓ 芍薬甘草湯は、筋肉のけいれんや痛みを緩和する効果が期待される漢方薬です。
- ✓ 主な作用機序は、芍薬に含まれるペオニフロリンと甘草に含まれるグリチルリチンの相乗効果によるものです。
- ✓ 重大な副作用として偽アルドステロン症があり、使用には医師や薬剤師との相談が不可欠です。
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)は、古くから筋肉のけいれんや痛みの緩和に用いられてきた漢方薬です。その即効性から「頓服(とんぷく)の芍薬甘草湯」とも称され、現代医療においても広く活用されています。
芍薬甘草湯とは?その特徴と歴史

芍薬甘草湯は、2種類の生薬「芍薬(シャクヤク)」と「甘草(カンゾウ)」から構成される漢方薬です。このシンプルな組み合わせが、筋肉の異常な緊張や痛みに効果を発揮するとされています。臨床の現場では、急なこむら返りや胃腸の差し込み痛などで「すぐに楽になりたい」と訴える患者さまに、しばしば処方する機会があります。
この漢方薬は、中国の古典医学書である『傷寒論(しょうかんろん)』や『金匱要略(きんきようりゃく)』に記載されており、その歴史は非常に古いものです。日本では江戸時代から広く使われるようになり、現代では医療用医薬品として承認され、様々な症状に用いられています[5]。
- 芍薬(シャクヤク)
- ボタン科のシャクヤクの根を乾燥させた生薬。鎮痛、鎮痙、抗炎症作用などが報告されています。
- 甘草(カンゾウ)
- マメ科のカンゾウの根や根茎を乾燥させた生薬。鎮痛、鎮痙、抗炎症、抗アレルギー作用などが報告されています。
芍薬甘草湯は、これら2つの生薬が組み合わさることで、単独では得られない相乗的な効果を発揮すると考えられています。特に、筋肉の異常な収縮を抑え、痛みを和らげる作用が注目されています。当院では、患者さまの症状や体質を詳しく伺い、この漢方薬が適切であるかを慎重に判断しています。
芍薬甘草湯はどのような症状に効果が期待できるのか?
芍薬甘草湯は、主に筋肉のけいれんや痛みを伴う様々な症状に対して効果が期待されます。その適用範囲は広く、多岐にわたります。
こむら返り(有痛性筋痙攣)
最もよく知られている効果の一つが、こむら返りへの効果です。夜間の足のつりや運動中の筋痙攣に対して、芍薬甘草湯は速やかに症状を緩和することが期待されます。複数の研究報告でも、筋肉のけいれんに対する芍薬甘草湯の有効性が示唆されています[2]。特に、急性の筋痙攣に対しては、服用後比較的短時間で効果を実感される方が多いです。
胃腸の痛み・差し込み
胃腸の平滑筋(へいかつきん)の異常な収縮によって起こる腹痛や差し込み痛にも、芍薬甘草湯が用いられることがあります。過敏性腸症候群(IBS)の症状の一つである腹痛や、胃痙攣などにも効果が期待される場合があります。実際の診療では、ストレス性の腹痛を訴える患者さまに、他の治療薬と併用して処方することもあります。
腰痛・肩こり
筋肉の緊張が原因で起こる腰痛や肩こりに対しても、芍薬甘草湯が選択肢となることがあります。特に、筋肉が硬直し、痛みを伴う場合に有効性が期待されます。ただし、骨や神経が原因の痛みには効果が限定的であるため、原因を特定するための適切な診断が重要です。
月経困難症(生理痛)
子宮の過剰な収縮によって起こる月経困難症、いわゆる生理痛にも、芍薬甘草湯が用いられることがあります。子宮平滑筋の緊張を和らげることで、痛みの軽減に寄与すると考えられています[3]。初診時に「生理痛がひどくて困っている」と相談される患者さまも少なくありませんが、芍薬甘草湯は選択肢の一つとして検討されます。
その他
- 癌化学療法に伴う神経障害性疼痛: 一部の研究では、抗癌剤による神経障害性疼痛(手足のしびれや痛み)の軽減に効果が期待される可能性も示唆されています[4]。
- 心肥大の予防: 動物実験レベルでは、心肥大の予防効果も報告されていますが、ヒトへの応用にはさらなる研究が必要です[1]。
このように、芍薬甘草湯は様々な筋肉のけいれんや痛みに対応できる可能性がありますが、症状の原因や患者さまの体質によって最適な治療法は異なります。自己判断せずに、必ず医師や薬剤師に相談することが重要です。
芍薬甘草湯の作用機序は?科学的根拠を解説

芍薬甘草湯が筋肉のけいれんや痛みに効果を発揮するメカニズムは、主に構成生薬である芍薬と甘草に含まれる成分の働きによるものと考えられています。
芍薬の成分:ペオニフロリン
芍薬の主要な有効成分の一つに「ペオニフロリン」があります。この成分は、筋肉の収縮を調節するカルシウムイオンの細胞内濃度に影響を与え、過剰な筋収縮を抑制する作用が報告されています。また、鎮痛作用や抗炎症作用も持つとされており、痛みの緩和にも寄与すると考えられています。
甘草の成分:グリチルリチン
甘草の主要な有効成分は「グリチルリチン」です。グリチルリチンは、副腎皮質ホルモンに似た構造を持ち、抗炎症作用や抗アレルギー作用が知られています。また、鎮痛作用も報告されており、芍薬のペオニフロリンと協力して痛みを和らげる効果を高めると考えられています。
相乗効果による鎮痙・鎮痛作用
芍薬甘草湯は、芍薬と甘草が1対1の割合で配合されているのが特徴です。この配合比率が重要であり、ペオニフロリンとグリチルリチンが互いに作用し合うことで、単独で用いるよりも強力な鎮痙(ちんけい:けいれんを鎮める)作用と鎮痛作用を発揮すると考えられています。具体的には、これらの成分が神経伝達物質の放出を調節したり、炎症性サイトカインの産生を抑制したりすることで、筋肉の異常な緊張を緩和し、痛みを軽減すると推測されています。
実際の診療で、患者さまが「飲んでしばらくすると、つっていた足が楽になった」とおっしゃる方が多いのは、こうした科学的な作用機序に基づいていると実感しています。ただし、その効果の現れ方には個人差があることも理解しておく必要があります。
芍薬甘草湯の飲み方・服用上の注意点
芍薬甘草湯は効果が期待できる漢方薬ですが、正しく服用し、注意点を理解しておくことが非常に重要です。自己判断での服用は避け、必ず医師や薬剤師の指示に従ってください。
基本的な飲み方
- 服用タイミング: 通常、食前または食間に水や白湯で服用します。頓服として、症状が出た時に服用することも多いです。
- 用量: 医療用医薬品の場合、成人には1日7.5gを2〜3回に分割して服用することが一般的です[5]。症状や年齢、体重によって調整されることがあります。
- 剤形: 顆粒や錠剤などがあります。
服用上の注意点
- 長期連用は避ける: 芍薬甘草湯は即効性があるため、症状が改善したら服用を中止するのが原則です。特に、長期にわたる連用は副作用のリスクを高める可能性があります。
- 他の漢方薬との併用: 甘草を含む他の漢方薬との併用は、甘草の摂取量が過剰になり、副作用のリスクが高まるため注意が必要です。
- 持病のある方: 心臓病、腎臓病、高血圧などの持病がある方は、服用前に必ず医師に相談してください。特に、心臓に基礎疾患がある場合は、慎重な検討が必要です。
- 妊婦・授乳婦: 妊婦または妊娠している可能性のある女性、授乳中の女性は、服用前に医師に相談してください。
芍薬甘草湯は、急性の症状に対して効果を発揮することが多いため、漫然と長期にわたって服用することは推奨されません。症状が改善しない場合や悪化する場合は、速やかに医療機関を受診してください。
芍薬甘草湯の副作用と注意すべき症状

芍薬甘草湯は一般的に安全性の高い漢方薬とされていますが、副作用がないわけではありません。特に注意すべき副作用として「偽アルドステロン症」が挙げられます。実際の臨床では、この副作用を常に念頭に置き、患者さまの症状を注意深く観察しています。
偽アルドステロン症とは?
偽アルドステロン症は、甘草に含まれるグリチルリチン酸が、体内でアルドステロンというホルモンに似た作用をすることで引き起こされる病態です。アルドステロンは、体内のナトリウムとカリウムのバランスを調節するホルモンであり、この作用が過剰になると、以下のような症状が現れることがあります。
- 高血圧: 体内のナトリウムが増加し、水分が貯留することで血圧が上昇します。
- むくみ(浮腫): 体内の水分量が増加し、特に顔や手足にむくみが生じます。
- 低カリウム血症: 体内のカリウムが過剰に排出され、血中のカリウム濃度が低下します。
- 筋肉の脱力感・麻痺: 低カリウム血症が進行すると、手足の力が入りにくくなったり、重症化すると呼吸筋の麻痺に至ることもあります。
- 頭痛、倦怠感: 全身的な不調として現れることがあります。
偽アルドステロン症は、特に長期連用や他の甘草含有製剤との併用によってリスクが高まります。症状が疑われる場合は、直ちに服用を中止し、医療機関を受診してください。
その他の副作用
- 消化器症状: 稀に、吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振などが現れることがあります。
- 過敏症: 発疹、かゆみなどのアレルギー症状が現れることがあります。
服用中に注意すべき症状の比較
| 症状 | 考えられる原因 | 対応 |
|---|---|---|
| 手足のむくみ、体重増加 | 偽アルドステロン症の初期症状 | 服用中止、医療機関受診 |
| 血圧上昇 | 偽アルドステロン症 | 服用中止、医療機関受診 |
| 手足のしびれ、力が入らない | 低カリウム血症(偽アルドステロン症) | 服用中止、緊急医療機関受診 |
| 吐き気、食欲不振 | 消化器症状(比較的軽度) | 一時中止、症状が続く場合は相談 |
| 発疹、かゆみ | 過敏症(アレルギー反応) | 服用中止、医療機関受診 |
これらの症状が現れた場合は、自己判断せずに速やかに医療機関を受診することが、患者さまの安全を守る上で最も重要なポイントになります。
芍薬甘草湯を服用できないケースや注意が必要な人とは?
芍薬甘草湯は多くの人に用いられていますが、特定の病態や状況下では服用が禁忌であったり、慎重な服用が必要であったりする場合があります。安全な治療のためには、これらの情報を事前に医師や薬剤師に伝えることが不可欠です。
服用できないケース(禁忌)
- アルドステロン症の診断を受けている方: 偽アルドステロン症のリスクが非常に高いため、服用はできません。
- ミオパチー(筋疾患)の診断を受けている方: 症状が悪化する可能性があります。
- 低カリウム血症の診断を受けている方: 症状が悪化する危険性があります。
注意が必要な人(慎重投与)
以下のいずれかに該当する方は、服用前に必ず医師または薬剤師に相談し、慎重に服用を検討する必要があります。
- 心臓病(心不全、心筋症など)の診断を受けている方: 偽アルドステロン症による体液貯留が心臓に負担をかける可能性があります。
- 腎臓病(腎不全など)の診断を受けている方: 体内の電解質バランスが崩れやすく、偽アルドステロン症のリスクが高まります。
- 高血圧の診断を受けている方: 血圧上昇のリスクがあるため、定期的な血圧測定が必要です。
- 高齢者: 一般的に生理機能が低下しているため、副作用が現れやすい傾向があります。少量から開始するなど、慎重な服用が求められます。
- 妊婦または妊娠している可能性のある女性、授乳婦: 胎児や乳児への影響が不明な点もあるため、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ服用を検討します。
- 他の漢方薬を服用している方: 特に甘草を含む他の漢方薬との併用は、甘草の過剰摂取につながり、偽アルドステロン症のリスクを高めます。お薬手帳などを提示し、服用中の全ての薬剤を医師や薬剤師に伝えるようにしてください。
当院では、初診時に患者さまの既往歴や服用中の薬剤について詳細に確認し、芍薬甘草湯が安全に服用できるか、あるいは他の治療法が適切かを総合的に判断しています。特に高齢の患者さまや複数の疾患をお持ちの患者さまには、より慎重な対応を心がけています。
まとめ
芍薬甘草湯は、芍薬と甘草の2つの生薬からなる漢方薬で、筋肉のけいれんや痛みの緩和に広く用いられています。こむら返り、胃腸の差し込み痛、月経困難症など、様々な症状への効果が期待され、その作用機序は芍薬のペオニフロリンと甘草のグリチルリチンによる相乗的な鎮痙・鎮痛作用と考えられています。しかし、長期連用や不適切な服用は、偽アルドステロン症をはじめとする副作用のリスクを高める可能性があります。特に心臓病、腎臓病、高血圧などの持病がある方や、他の薬剤を服用している方は、必ず医師や薬剤師に相談し、適切な指導のもとで安全に服用することが重要です。
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よくある質問(FAQ)
- Hideaki Tagashira, Fumiha Abe, Ayako Sakai et al.. Shakuyaku-Kanzo-To Prevents Angiotensin Ⅱ-Induced Cardiac Hypertrophy in Neonatal Rat Ventricular Myocytes.. Cureus. 2025. PMID: 39712736. DOI: 10.7759/cureus.74064
- Koshi Ota, Keisuke Fukui, Eriko Nakamura et al.. Effect of Shakuyaku-kanzo-to in patients with muscle cramps: A systematic literature review.. Journal of general and family medicine. 2024. PMID: 32489757. DOI: 10.1002/jgf2.302
- Genichiro Sumi, Katsuhiko Yasuda, Shoko Tsuji et al.. Lipid-soluble fraction of Shakuyaku-kanzo-to inhibits myometrial contraction in pregnant women.. The journal of obstetrics and gynaecology research. 2016. PMID: 25421109. DOI: 10.1111/jog.12618
- Takao Hidaka, Tomoko Shima, Kiyofumi Nagira et al.. Herbal medicine Shakuyaku-kanzo-to reduces paclitaxel-induced painful peripheral neuropathy in mice.. European journal of pain (London, England). 2009. PMID: 18472288. DOI: 10.1016/j.ejpain.2008.03.003
- 芍薬甘草湯 添付文書 – PMDA(医薬品医療機器総合機構)
